プロフィール

: © 板垣崇志「心と石」2006

命はどこにあるのでしょう。

私の命とあなたの命は、別の命なのでしょうか。
別の命ならば、二つの命の境目は、どこにあるのでしょうか。

一人の命は、百人の命より少ないのでしょうか。
アリの命より象の命のほうが大きいのでしょうか。
だとしたら象の命より人間の命は小さいのでしょうか。

私が生まれたとき、この宇宙に命が一つ増えたのでしょうか。
私が死ぬとき、この宇宙から命が一つ減るのでしょうか。

花は命があるけど、石には命がないのでしょうか。
地球や太陽には
宇宙には
命がないのでしょうか。
あなたの命は、あなたが生まれる前はどこにあったのでしょうか。

もしかして
命は、はじめからひとつしかない。
命には、始まりも終わりもない。
命は、「どこか」にあるものではない。

あなたと私とみんなとは、ひとつの命の手のひらから、ひとつひとつの指のように広がっている。
あなたと私とみんなとは、命の海の中で、ひとつひとつの氷のつぶのように生まれ、やがてふたたび海の中にとけていく。

ただひとつの命が、宇宙になり、星になり、石や水になり、私たち一人一人になる。
始まりも終わりもない命が、時間を生み出し、宇宙や星や私たちの始まりや終わりになる。

皆がひとつの命なら
皆が同じ命なら
けれど私たちがそのように振舞えないのはなぜでしょう。
大きな命と小さな命があるかのように
この命とあの命が同じだなんて認めたくないかのように
私たちがずっと振舞い続けるのはなぜでしょう。

私たちは
何に囚われているのでしょうか。

ひとつの海から生まれた氷のつぶ
ひとつの手のひらから広がる指
けんかをしても
なかよくしても
やがてはひとつの命に帰る。

思い出したい
みんなで帰るあの終わりのない海を
星や水や石や花や生きているみんなの
ほんとうに生きているところを。

きっと、いつか仲なおりしよう。

約束しよう。

PROFILE

プロフィール

１９７１年、岩手県花巻市の農家に生まれる。
小学生の頃、家の小屋から牛が逃げ出した。必死に走る黒い巨体が、やがて叫びながら追う大人たちに囲い込まれて捕らえられる様子に、自由も自分の命を生きることも許されない存在への絶望が胸に湧き上がる。

人の気持ちが読めず、そのくせ多弁で、しばしば孤立する子ども時代を送った。以後、人に対する苦手意識は青年期まで続く。しかし、そんな自分が他の同級生をいじめることも。根深い残酷さ。

生家の菩提寺の隣に、知的な障害のある人たちの入所施設があった。そこに入所するちゃんと会ったこともない人たちに対して、少年時代の私は「変な人たち」と思い、さげすみと恐れを抱いていた。

東京学芸大学で電気生理学と神経心理学、岩手大学で銅版画を学んだのちの１９９８年、20代の終わりに、思いもかけずその入所施設の門をくぐる縁が訪れる。そこで暮らす人たちとの出会い。かつて「変な人」と思っていた人たちは、私が初めて信頼し、心を開くことができる人たちだった。世界の景色が大きく転換する。

同時にその人たちの描く絵画の存在を知る。以後、その施設でボランティアや非常勤職員として、造形表現活動のサポートに当たることに。また、並行して特別支援学校の芸術講師や、精神の障害と共に生きる人たちの造形表現のサポートも岩手県各地で務める。

２００７年、前述の入所施設を運営する法人の美術館設立計画に携わる。開館と共に「るんびにい美術館」アートディレクターに就任。かつて自分に知的な障害のある人たちをさげすませていた、他者に対する無知、命に対する無知を社会から晴らすことをミッションに、他者の心に出会う場であり、あらゆる命の等質性を体感する場としての美術館づくりに打ち込む。

その理念をさらに推し進め、一人の人間の心・歴史・繋がりに触れる出前授業、「であい授業」プロジェクトを２０１６年に立ち上げる。知的な障害のある人が講師を務める出前授業をモデル化し、有志らと共に全国へ拡散させることに挑戦中。

２０１８年から岩手県文化芸術振興審議会委員。

命が命を苛み合う社会の宿業に抗い、命の言い分が聴き届けられる社会の醸成を目指したさらなる実践の探究のため、２０２０年「しゃかいのくすり研究所」を設立。新たな段階へ挑む。